100億倍のダイナミックレンジを目指して! 第2回

第1回は「星の明るさ」について、宇宙の途方もない拡がり踏まえながら考えてみました。今回は、そうした「宇宙の広がり」を実感するために、ギガスターではいったいいくつの星を再現しようとしているのか紹介します。

★★ 第2回 人類が知り得る全天の星データ~10億個の星をすべて再現
「ギガスター」プラネタリウムの目的は、「肉眼だけではなく天体望遠鏡を用いた本格的な天体観測が行える宇宙を再現すること」、子どもたちが「宇宙に向ける興味関心をさらに伸ばす星空体験を提供する」ことにあります。 そのため、ドーム内に本格的な天体望遠鏡を持ち込んで天体観測が行えることが重要なポイントになります。 また、人間の眼で覗くだけでなく、人間の眼の能力を大きく拡大する、CCDカメラのような観測装置を用いた観察も行えるようにします。

ギガスターの具体的な目標としては、一般的な小学校の体育館で設置できることを想定して、直径15メートルのエアドーム式になります。したがって、その限られた空間の中に持ち込める観測機材で、もっとも性能の良い装置(望遠鏡とセンサー)で捉えることができる最も暗い天体を、すべて再現することにしました。
下の表は、肉眼や望遠鏡、CCDカメラなどの観測機材でとらえることができる星の明るさを示したものです。

(デジカメや冷却CCDカメラは参考値)
装置      センサー  レンズ径     見える等
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1.肉眼        網膜     約6mm(瞳)    6 等星
2.双眼鏡      網膜     ~50mm       11.3 等星
3.望遠鏡      網膜     ~300mm      15.2 等星
4.デジカメ     CCD     50mm        約16等星
5.冷却カメラ    冷却CCD  200mm       >20等星

この表から、観察に使う装置によって、再現すべき天体の等級は、大きく変わることが分かると思います。

通常のプラネタリウムは、肉眼で観察することが主の目的ですので、6等星までの星を再現すれば良いのです、その場合、星の数は、1万個くらいになります。 しかし最近の最先端のプラネタリウムでは、恒星原版の加工精度を高めることで、15等星程度、個数で言って1億以上の星を再現するものもあるそうです。

一方で、私たちギガスターでは、「5.冷却カメラ」でようやく観察できる20等星程度の暗い星まで再現することにしました。 ちなみに、この20等星という星は、全天でいくとあると思いますか? そもそも、そんな星のデータが存在するのでしょうか?

実は、戦後1946年から半世紀にわたって、全世界の天文台が星の写真を撮影して、その位置や明るさ、色などをカタログ化する「スカイサーベイ」という観察が継続して実施されています。これらは、科学者が1枚の写真を撮影するのに何時間もかかるなど、長年の人類の財産ともいえるものです。 その何千枚もの写真乾板を、アメリカ海軍天文台が最新のデジタルカメラでスキャンしてデータ化したカタログ(USNOB1.0)があります。 このカタログには、全天の10億4千万個の星、明るさで言えば21等級くらいの星まで収録されています。 今でこそハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などでクローズアップすれば、もっと暗い天体まで観察できますが、全天をすべて同じ品質でカバーしているカタログとしては、今でもUSNOB1.0を超えるものはありません。これは人類の財産と言っても過言ではないのです。
そこで、ギガスターではこのUSNOB1.0というスターカタログに掲載されている10億を超える星を、すべてそのまま、再現することにしました!
写真乾板にかすかに写る星を極限までデジタイズしている関係で、等級の系統的な誤差など、いろいろな問題点もあるようですが、プロジェクトリーダーからいろいろアドバイスをいただいてギガスターの目的に照らし合わせて利用することいしました。
ところでみなさんもご存じのように、ギガスターの「ギガ」は「10億」を表すことば。 私たちは、10億個を超える星を再現するプラネタリウムということで、このプラネタリウムに「ギガスター」と名前を付けました。

★天地明察の「渾天儀(こんてんぎ)」と、「ギガスター」
少し話が脱線してしまいますが・・・みなさんは「天地明察」を読まれましたか?
私はちょうどこのプロジェクトを構想している時に、この小説と映画のあるシーンに感銘し「ギガスター」の実現の意を強くしました。 これは、幕命を帯びて「北極出地」(北極星観測による緯度の確定)の観測旅行に出た際、その隊長である建部伝内(演:笹野高史)が病に倒れ、その別れの床で主人公の渋川春海(演:岡田准一)との会話で語った「渾天儀(こんてんぎ)」という建部氏の大願が、まさに「ギガスター」だと思ったからです。
冲方丁(うぶかたとう)の「天地明察」から、少し引用します。
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「わしにも、一つ、大願というやつがある」 と建部が呟くように言った。
口調は呟くようだったが、目は春海を見ていた。
「は・・・」 春海には咄嗟に相づちを打つことしかできず、 「どのようなものでしょう?」 と伊藤がにこにこ微笑んで先を続けさせた。
「渾天儀(こんてんぎ)」 建部は、ぽつっと告げて杯を置き、 「天の星々を余さず球儀にて詳(つまび)らかにする。太陽の黄道、太陰(月)の白道、二十八宿の星図、その全ての運行を渾大にし、一個の球体となしてな。そして-」
そこで、春海が初めて見る表情を浮かべた。恥ずかしがるような、照れるような顔だ。そして両腕で何かを抱えるような仕草をしてみせ、その、何もない眼前の虚空を愛しむように、
「それを、こうして・・こう、我が双腕に天を抱きながらな・・三途の川を渡りたいのだ」 言って腕を下ろし、 「そう思っていた・・ずっと、いつの頃からか、な」 と付け加えた。
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天の星々を余さず球儀にて詳らかにし、一個の球体となして我が双腕に天を抱く
10億を超える星々を、余さず全球上に再現する「ギガスター」。私はこれを、建部伝内の大願だった「渾天儀(こんてんぎ)」として、現代に実現したいと強く思いました。

さて、こうしてギガスターでは、USNOB1.0という、現在人類が持つもっとも詳細な全天スターカタログに掲載されている、10億を超える星を、15メートルドームの壁面にすべて再現することを目標に掲げました。
それは本当に可能なのでしょうか。
実は、10億という個数以上に、その「限りなく暗い星々」を再現することの技術的な課題が、プロジェクトのポイントとなりました
次回は、その課題を紹介しながら、いよいよ、「ギガスターが目指す、100億倍のダイナミックレンジ」について紹介します。

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